春休みに読んだ本紹介『災害ユートピア』レベッカ・ソルニット
こんにちは。Sラボチューターの佐々です。
最近は寒暖差が激しくて何を着るか迷ってしまいますね。。。
皆さんは春休みをどのように過ごしましたか?
私は、授業がある時は予習や課題に追われて読書の時間が十分に確保できないため、春休み中にたくさん本を読むようにしました。
約2ヶ月半で計7~8冊は読んだのですが、その中でも特に興味深かったものをピックアップしてご紹介しようと思います。
今回紹介するのは、アメリカの作家レベッカ・ソルニットによる『災害ユートピア』です。
おそらく、このタイトルを見るとほとんどの人が頭にクエスチョンマークを浮かべるでしょう。
多くの死傷者を出す悲劇的な「災害」と、日本語で"理想郷"を意味する「ユートピア」。
一見、相反するような単語の組み合わせですが、ソルニットが本書で提唱する「災害ユートピア」の概念は、災害大国日本に住む私たちなら皆、身をもって理解できるはずです。
2022年3月11日。決して忘れることのできない大震災の発生から、11年を迎えました。
11年前のあの日、皆さんはどこにいて、誰と何をしていたでしょうか。
私は当時小学生で、校庭で体育の授業を受けていました。
校庭のスピーカーから、緊急地震速報が突如大音量で流れ、「5、4、3、2、1…」というカウントダウンの後に、足元の地面がグラグラと揺れ始めたのを鮮明に覚えています。
揺れがおさまり安全が確認された後は、保護者が迎えにくるまで教室で他のクラスメイトと待機をしました。
私の住むマンションは小学校の隣にあったため、母がすぐに迎えにきてくれました。
マンションの最上階に位置する私の家は地震の影響を大きく受け、リビングにあるピアノは数センチ移動し、食器棚からたくさんのお皿が床に落ちていました。
地震発生時家にいた母は、偶然家を訪れていたクリーニング屋さんと二人で階段を駆け下り、私を小学校まで迎えにきた後は、マンションの居住部とは中庭を挟んで向かいにあるフロントで、他の住民と一緒に部屋の安全が確認されるまで一時避難をしていました。
私はあの時、見慣れたはずのマンションフロントの空間が、異様な感覚に包まれていたのをよく覚えています。
やや語弊があるかもしれませんが、それは「幸福感」や「安心感」のようなものに近かったと思います。
同じ建物に住んでいるはずなのに、互いに顔を合わせたことのない住民たちが一つの空間に集い、身の安全を確認し合う。
他人の家族の安否を確認するために、回線が混雑している中、自分の携帯を使って電話をかけ続ける。
小学生の私に、部屋から持ってきたお菓子をくれた住民もいました。
初めて経験するような大地震を前に、老若男女誰もが恐怖や不安を抱いていた一方で、そこに突如として出現した空間は「協力」や「結束」に溢れていました。
それはまさに「ユートピア」ともいうべきものでした。
ソルニットが『災害ユートピア』という概念を用いて説明しようとするのは、まさにこの時空間のことなのだと思います(少なくとも自分はそう解釈しました)。
地震や台風など大きな被害をもたらす災害の発生によって、日常的な悩み事や人間関係、社会的立場が一瞬にして清算され、物理的にも無の状態から、周囲の他者と協力・結束し、非日常を生き抜いていく。
ソルニットが本書において扱う事例は、私の経験よりもはるかに過酷なものばかりですが、被害が大きく状況が悲惨であるからこそ、私が経験したそれよりもずっと規模が大きく、そして長く継続する「ユートピア」が観察されています。
「災害ユートピア」の概念は、私が11年前に感じたあの異様な感覚に説明を与えてくれました。
余談ですが、本書をきっかけに著者であるレベッカ・ソルニットに興味を持ち、春休み中に彼女の著作を他に3冊読みました。
ある本では災害論、別の本ではフェミニズム、また別の本では文化人類学的洞察…というように彼女の扱うテーマは広く、どの本も新しい気づきを与えてくれます。
ぜひ、読んでみてください!